阿波勝哉が脚光を浴びて以来、チルトをハネ上げて伸び型仕様にする選手が増えてきた。東京の若手をはじめ、三重の坂口周、澤大介らだが、その動きに呼応するかのように、チルト3度を解禁する競艇場がポツポツと出始めている。今現在、チルト3度を使用できるのは、平和島、多摩川、蒲郡、津、児島、宮島、三国で、最近になって尼崎も加わり、もうじき下関も導入するらしい。
競艇はまくりが華、イン逃げばかりではつまらない。先日の平和島笹川賞は好配当の連発で、枠番の優位性ではなく、選手と機力による売れ方が新鮮だった。ただ…、そう思えるのは、筆者が笹川賞では傍観者だったから。本紙予想もしていないし、舟券も買っていないからに他ならない。
強力なまくり選手が6コースだと、舟券で『勝負』ができない。インの選手もまた強力だとしても、力五分ではもちろんのこと、7対3でイン選手に分があっても、伸び型の締めまくりが襲いかかる可能性があるとしたら、勝負は回避せざるを得ない。6コースの選手を買うにしても、どこまで叩いてまくるのか、ツケマイかはその時々だし、外変わり全速の使い手が多くなっているぶん、連下が絞りにくく、これまた買いにくい。1Mのぶつかり合う可能性も当然あるわけだし、良く言えば波乱に富んだレースになりがち、悪く言えばレースが壊れがちだ。
チルト3度のまくりは見世物として最高。そのレースは宝くじ感覚で舟券を買えるが、本気で舟券勝負をしたい場合には実に厄介。筆者が本紙予想担当で本命党ゆえ、そう思うのかもしれないが…。ちなみに、戸田は水面幅の関係上、安全性を考慮しチルトはプラス0.5度までで、今後も変更されないだろう。
『モーターボート選手新聞』という、おそらく一般には出回っていない業界紙がある。発行人は野中和夫(現選手会会長)で、業界の動き、出来事などが載っていて、その一項に全国支部長一覧があった。
4月1日現在、全国各支部の支部長は…
群馬→新井 亨 東京→池田雷太 静岡→庄司泰久 愛知→河合良夫
三重→矢橋成介 福井→窪田好弘 滋賀→白石桂三 大阪→角井義則
兵庫→冨好和幸 徳島→丸尾義孝 香川→山崎昭生 岡山→片山 晃
広島→石田 豪 山口→小林昌敏 福岡→濱田和弘 佐賀→栗山繁洋
長崎→太田国広
支部長職は見た目にもかなりハードである。地元戦に出場すれば常に選手代表(戸田の場合)でまとめ役となり、オフの日は背広を着て関係各所を回り、会合、ファンイベントにも顔を出したり…。他支部長の顔ぶれから、読者の方もお気づきか。ベテラン、または一線級を退いた中堅が多数を占めており、片手間で出来るものではない。
埼玉支部長の山崎義明の話に移ろうか。支部長に就任した前後の山崎は、戸田で凄まじい強さを見せ、成績も抜群に良かった。『戸田天皇』の池上裕次に匹敵する強さ、と書くと大袈裟に思われるかもしれないが、事実、一般戦では相手・枠番を問わず本命◎印をつけられる時期があったし、全国の記念にも結構呼ばれていた。しかし…、新基準ペラが導入された時期とも重なるが、一頃の快速には仕上がらなくなった。ついに近況はA1級維持に四苦八苦するほど低迷している。
山崎本人に成績不振の訳を聞いたとしても、支部長職による多忙さが原因だと口にしないだろう。実際は単なるスランプかもしれないし、年齢による衰えかもしれないし、本人でも分かっていないかもしれない。ただ、一つ言えるのは、外注ペラ全盛の時代とはいえ、仕事場でもオフでもエンジン出しにさける時間が限られ、調子を崩す可能性があるということ。支部長が損な役回りにならないよう、周りが手厚くサポートしなければならない。また、我々記者も、山崎の本業に迷惑がかかることのない取材をしようと常々思っている。